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2007年06月18日

概説

QOLにはさまざまな場面があるが、基本的には性科学は、「通常の」夫婦の結婚生活における性生活の健康と豊かさを実現しようとする技術的な学である。

それ故、男女のあいだの性行為における身体的・心理的な充足やクオリティ(質性)の実現を学の目標としている。

また、結婚していない男女のカップルのあいだの性的関係の質の向上なども主題とする。

性行為が理想的に達成され、パートナー双方が身体的・心理的な喜びや満足・快感を得ることが学の目標である。

性行為に関わる身体器官(生殖器官)の十全性や、性の生理機構、また心理的な調整の技術を研究すると共に、身体・心理、いずれの場合でも、障害や不全性があるケースにおいて、これを補完し、性の医療技術や心理療法によってクオリティを高めようとする。

性行動を行う期間が生殖期間に比べて長いことはヒトの特徴の一つであるが、不妊等の研究と比較すると、楽しみとしての性に関する研究はタブー視されがちであった。

しかし国民の平均寿命が伸び少子化により生殖期間が短くなった現代日本では、この種の研究分野の活性化が求められている(石濱、1998)。
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2007年06月17日

性科学の展開

前節では性科学は「通常の」夫婦の結婚生活に関わるとした。

しかし20世紀に入ると、人間の性的な可能性や人間相互の性的関係における多様なありようが承認されるようになった。

西欧において伝統的に「異常」または「犯罪」であると見なされてきた同性愛が、決して異常な心理や行動の様式ではないということが社会的に認められて来たことが一つの例である。
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2007年06月16日

通俗性科学

「広義の性科学」の構想と関連して、「性科学」はそのプラグマティックな性に関する技術知見の集積という性質から、容易に科学性の欠如した、通俗的な俗信に陥る危険性を持っている。

例えば、「多数の男性と一度に性行為をすれば(乱交すれば)、妊娠を免れる」というような「性の技術知識」は、科学的に根拠希薄である性の迷信・俗信の類であるが、このような主張が、「性科学/性科学者によれば」と言うような形で、権威付けされることが多々ある。

科学的知識と、科学的検証を経ていない経験的知識や俗信の類は、厳密に区別せねばならない。科学としての性科学は、おのずから科学であるが故の厳しい基準で自己を律する必要がある。

しかし、現状として、性に関する科学的知見と根拠薄弱な俗信、また性に対する偏見に起因すると考えられる臆断がないまぜとなったような内容の本が、「性科学・セクソロジー」の名を冠して出版されるなどの弊害が存在している。

性は人間にとって余りにも普遍な事象で、人間の生にとって重大な意味を持つことより、科学としての性科学以外に、科学とは言い難い知見や見解が、性科学の名のもとで語られることが実際にある。

しかし、このような用法での性科学は、「通俗性科学」として、科学としての性科学とは峻別せねばならない。
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2007年06月15日

広義の性科学の構想

このことから、性行為における身体的・心理的な質性(クオリティ)の実現と、その結果(妊娠・出産や性感染症)への対応をプラグマティックに研究することを基本とする「性科学」とは別に、人間の性の現象全般を、学際的な広域メタ科学・メタ学問として展望しようとする考えが存在する。

「広義の性科学」とは、このようなメタ科学(総合科学)である。

しかしこのような「広義の性科学」は、科学・学問としてどのような研究原理に依拠するのか、また体系性や巨大学問としての整合性において、単に構想を述べることはできても、実際の体系的学問としては構成することが極めて困難である。

また学問としての具体的なありようも判然としない。

現実にも、そのような広範な領域を横断した総合科学は存在していないのが実状である。

「広義の性科学」は、構想において展望されているのみであり、今もなお実証的な体系的学問としては実在していないことに注意せねばならない(以下の「通俗性科学」とも連関して、一部に、このような体系的学問が実際に存在しているかのごとき「虚偽」を喧伝する者が存在している)。
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2007年06月14日

性科学の関連分野

人間の性(human sexuality)の現象は、身体の生理学、身体医学、心理学、精神医学、社会学、文化人類学などと密接に関係し、更に、性的快楽とは何かということに関連して、大脳生理学・神経生理学の分野にも広く知見・知識を求める。

「性の研究」は、このように諸分野を横断した「学際性」を備えている。
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2007年06月13日

性の研究の歴史

古代ローマの詩人オウィディウスが紀元前3年頃に著した『愛の技術 (Ars Amatoria)』を始め、ヴァーツヤーヤナ(年代不詳)が著したとされるインドにおける性の教典である『カーマ・スートラ』(1世紀から6世紀頃)、16世紀のアラビアにおいてマホメッド・エル・ネフザウィが著した『匂える園』等、古来から性的行為のマニュアルは多数存在する。

しかしながら、これらはいずれも、経験的に蓄積された性の技術知識の雑然とした集積であり、また文学でもあった。

当然、科学的または医学的研究の主題として「性」を扱ったものではなかった。

性的行為や性関係をめぐっては、社会共同体の構成原理やその機構とも密接に関連するため、様々な社会的規範や道徳的な基準が存在して来た。性をめぐる禁忌は多く、「正常な性的行為・性関係」が社会的・文化的規定される他方、人間の性の実際のありようについて、これを公的に言及することが避けられる傾向も多くの社会には存在した。

20世紀に入り、西欧においては、従来キリスト教的な宗教的道徳的視点から、異常行為・犯罪ともされていた「同性愛」が、犯罪ではなく、異常でもないという意見が、性の研究者たちによって主張された。

また、フェミニズム運動やジェンダーの問題も提起され、「正常な性」だけを科学の対象とするのではなく、周縁の抑圧され否定されて来た性の現象も「性の科学」において扱うべきであるとの潮流が出現した。

このような流れにおいて、20世紀における「性の科学」運動以前で、最も初期の科学的な性の研究者は、リヒャルト・フォン・クラフトエビングである。

彼はその著書『性的精神病理 (Psychopathia Sexualis)』において、性倒錯の系統的類型記述を初めて行い、また同性愛等についての実証的研究を行った。

19世紀の終わりから20世紀の初めにかけて、ジークムント・フロイトが精神分析の理論を提唱した。フロイトの理論は、人間の心理と行動は、無意識におけるリビドー(性的エネルギー)によって規定されるとしたため、精神分析学は、人間の性の現象や性行動を解明できる理論であると期待されたが、理論は科学的とは言い難かった。

1919年、人間の性の現象を総合的に研究しようと企図して、マグヌス・ヒルシュフェルトは、「性の学 (Sexualwissenschaft)」を提唱し、ベルリンに「性学研究所 (Institut fur Sexualwissenschaft)」を設立した。

しかし1933年5月6日、政権を掌握したナチスによってこの研究所は破壊され、蔵書も燃やされた。

1947年、アルフレッド・キンゼイはインディアナ大学ブルーミントン校に Institute for Sex Research を設立した。この研究所は現在では、「 Kinsey Institute for Research in Sex, Gender and Reproduction(性、ジェンダー、生殖に関するキンゼイ研究所)」と呼ばれており、人間の性、ジェンダー、および生殖の分野における学際的な研究を行い、性に関する研究の促進を目的とする。

「キンゼー研究所( Kinsey Institute )」と略される。

キンゼイの統計的手法による社会学的調査と研究は、多数の実証的成果を挙げ、性に関する多様な事実知見を公にした。

人間の性関係や性のありようを、「正常な性」に限局しようとする従来の医学や心理学に対し、人間の生の現象の多様性を事実として科学的に認め研究しようとする方向が確立したとも言える。

「性科学」もまた、このような趨勢に応じて、学際的な知見を元に、多様な性の現象に対応することを目指している。
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